ある日、山手線に乗ろうとしたとき、近くにいたアメリカ人らしい若い男がある曲を口ずさんでいた。
「Born In The U.S.A…..」
彼が口ずさんでいたのは、当時、日本でも大ヒットしていたBruce Springsteenの「Born In The U.S.A」だった。いまのように観光客が東京にあふれかえっていた時代ではなかったため、横須賀あたりから出かけてきていた米兵だったように思う。
Bor In The U.S.A. Born In The U.S.A…….
Bruceの「Born In The U.S.A」は、本国アメリカでも、当時のレーガン大統領がとりあげたとかで、愛国心をたたえた曲というように誤解されていた。日本でも、筋肉に満ちた肉体でバンダナを頭に巻いたBruceの姿がよく目に付いたり、ある意味では能天気なセールスプロモーションビデオが流れたせいもあって、「マッチョなBruceのアメリカ万歳の歌」とでも受け止められていたことが多かったようだ。
「Born To Run」(明日なき暴走)やそれ以前の「The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle」(青春の叫び)から聞いていたファンとしては、はじめて日本の大衆にBruceの曲が注目されたことの喜びとともに、みょうな受け止め方をされていることに不安と不満もあった。
そんな気持ちは無関係に、1984年に発表されたBruceの7枚目のアルバム「Born In The U.S.A」からは、いくつかの曲がシングル化されて、それぞれヒットしていった。
「決して退却しない。 決して降伏しない。」と歌うB面の「No Surrender」に続く「Bobby Jean」がシングルカットされればヒットするだろうにと当時の私は思っていたが、なぜかBruceはこの曲をシングル化せず、「I’m On Fire」や「Glody Day」「I’m Going Down」「My Home Town」という地味な曲ばかりシングル化された。
16歳のときに知り合った友人が家を出たことを知ったことからこの曲は始まる。
Well I came by your house the other day,
your mother said you went away
She said there was nothing that I could have done
There was nothing nobody could say
「この間お前の家に行ってみたら、お前の母親がお前は出て行ったという。
お前の母親は、俺でもなにもできなかっただろう、だれにもなにもできなかっただろう、そう言った。」
Now you hung with me when all the others turned away turned up their nose
We liked the same music we liked the same bands we liked the same clothes
We told each other that we were the wildest, the wildest things we’d ever seen
「まわりのみんながおれに背を向け、そっぽを向いても、お前だけはそばにいてくれた。
俺たちは、同じ音楽が好きで、同じバンドが好きで、同じ洋服が好きだった。
俺たちが一番ワイルドで、俺たち以上にワイルドなやつなんて見たことがない、そう言いあっていた。」
Now we went walking in the rain talking about the pain from the world we hid
Now there ain’t nobody nowhere nohow gonna ever understand me the way you did
「雨の中を歩きながら痛みについて語り合った。
お前のように俺をわかってくれるものはもういない。」
そして、バスか列車に乗っているかもしれない友人に向かって、あるいはモーテルの部屋でラジオを聴いているかもしれない友人に向かって、この曲を歌っている自分の声が聞こえるだろうかと問いかける。
Maybe you’ll be out there on that road somewhere
In some bus or train traveling along
In some motel room there’ll be a radio playing
And you’ll hear me sing this song
遠く離れていてもその友人のことを想っていて、最後にもう一度呼びかけたいと考えていると。ただそれは、友人の決心を変えさせるためでなく、さよならを言いたかったのだと。「お前がいなくなってさみしいよ、さようなら、Bobby Jean。 」
Well if you do you’ll know I’m thinking of you and all the miles in between
And I’m just calling one last time not to change your mind
But just to say I miss you baby, good luck goodbye, Bobby Jean
短編小説のように情景を描写することの多いBruceとしてはめずらしくセンチメンタルで情緒的なこの曲は、1975年の「明日なき暴走」以降、E Street Bandのギタリストとして行動をともにしてきたSteven Van Zandtがバンドを離れたことから生まれたとされている。